コロナショック以降の量的緩和で株価が上昇を続け、2021年8月時点でS&P500は連日最高値を更新するような状況にあります。
そんな状況下、株式市場にとって最大の懸念事項となっているのがテーパリングの開始です。
相場の大きなトレンド転換の局面であり、株式投資にとって大きなリスクの一つとなっています。
要人の軽い一言でも相場急降下。。
この記事では、金融政策・金利変動と相場サイクルの状況を考慮した投資について考えてみたいと思います。
まずは短期金利と長期金利の違いについて見ていきたいと思います。
短期金利と長期金利の違い
短期金利は政策金利と呼ばれ、FRBや日本銀行などの政府機関による金融政策などによって決まります。
長期金利は、主に長期資金の需給関係、物価の変動、短期金利の推移(金融政策)などの様々な要因と長期的な予測を元に変動します。
長期金利:1年以上の金融資産の金利。代表例は10年物国債。
短期金利:1年未満の金融資産の金利。代表例は政策金利。
中でも関係が深いと考えられているのが、景況感、物価、為替、海外金利差の4つです。
・景況感(景気の上昇→金利の上昇)
好景気で個人消費が加速すると、企業は需要増に対応するため、金融機関から借り入れを行い、設備投資や生産体制の増強を行います。
そうすると借り手が多くなり、結果として金利が上昇する仕組みです。
反対に景気が悪くなると、資金の需要が減少し金利が低下します。
・物価(物価の上昇→金利の上昇)
物価の上昇はイコールお金の価値の低下を意味します。
インフレ率が高い状況では、モノの価値が相対的に高まるので、消費者は活発に消費活動を行うようになります。
その結果、資金の供給(貯蓄)が減り、金利が上昇します。
・為替(対ドル通貨安→金利の上昇)
例えば、円安ドル高が予想されるときには、手持ちの日本円をドルに換える人が増えます。
すると、資金供給が減ることから、金利が上がります。
・海外金利差(海外金利の上昇→国内金利の上昇)
たとえば米国金利が上昇すると、日本の投資家は米国の債券を買います。
すると、日本の債券の買い手が減ることから、国内金利も上昇します。
金融政策と相場
短期金利と長期金利それぞれが動く要因について見ていきました。
それでは、その金利変動は株式市場にどのような影響をもたらすのでしょうか。
相場は4つの局面をサイクルし、その局面は具体的に金融相場・業績相場・逆金融相場・逆業績相場に分かれます。
金融相場
長期金利と短期金利が共に下落し、長短金利差も拡大している段階が金融相場です。
業績相場
短期金利も長期金利も上昇し、長短金利差が拡大している状態です。
この状態の時は業績相場にあると考えられます。
逆金融相場
長期金利も短期金利も上昇局面ながら、長短金利差が縮小している段階に入ると逆金融相場にあると考えます。
逆業績相場
長期金利と短期金利が下落し、長短金利差が縮小している段階は逆業績相場であると考えます。
金融緩和を前提とする相場(金融相場)
政府機関による量的緩和やゼロ金利政策などで需要喚起が行われた結果、景気は下降から回復傾向へ転じます。
資金需要の増加で長期金利が上昇する一方、短期金利は低いままで、長短金利差が開く形となります。
この局面では、金利、為替などのマクロ要因がミクロ要因よりも重視され、企業業績回復期待で先行して株価が上がります。
金利低下メリットを享受
・景気敏感セクター
・不動産セクター
成長期待が高く買われやすい
・ハイテクセクター
・バイオセクター
金利の上昇を前提とする相場(業績相場)
(テーパリング発表~金融引き締め開始)
企業投資増加で景気が加速すると、業績も拡大基調となります。
この局面では、景気過熱を抑えるため、政府によりテーパリングとして短期金利の利上げが段階的に計画〜開始され、徐々に長短金利差が縮小し始めます。
マクロ要因よりも個別銘柄の業績等のミクロ要因を背景に株価が上昇することが多い傾向があります。
*株価指数の上昇力は抑制された状況となります。
成長力や業績の向上などのファンダメンタル面が市場に評価されることが株価の上昇力となり、景気拡大が進む局面です。
景気拡大で業績へのメリットがより大きい企業
金融引締めによる金利上昇相場(逆金融相場)
(金融引き締めで短期金利上昇~金融緩和開始)
景気過熱・過度のインフレを抑制するための、政府や中央銀行による物価安定策(テーパリング・利上げ)が進展すると、短期金利がより上昇して長短金利差が縮小します。
*長期金利を上回る逆イールドになると、景気後退の前兆の意味となります。
短期金利の上昇で資金調達が不利になるため企業の投資活動は次第に鈍化します。
投資家の資金は株式市場から債券など相対的に価値が上がる固定金利の金融商品に流れるため、株価は下降方向に調整され始めます。(物価も下落)
金融セクターのように高金利が収益増に繋がるセクター
金利上昇でも業績に影響の出にくい無借金企業などバランスシートが健全な企業等
金融引き締めから緩和への転換による短期金利低下(逆業績相場)
(金融緩和開始~)
短期金利の低下は長期金利より鋭く、長短金利差が拡大します。業績悪化による株価下落傾向が継続します。
景気が後退局面(リセッション)に入ったと判断されると、中央銀行が金融政策を金融緩和へと転換させます。
国債買い入れや短期金利の利下げを行うことで、市場への資金の供給量を増やし流動性を促す結果、企業の資金繰りが改善し、徐々に業績改善・株価の上昇へとつながっていきます。
景気と業績の連動性が低い医薬品やインフラ、生活必需品といったディフェンシブセクター
イールドカーブ
株式市場が現在どこのサイクルにあるのかを見極める方法に、イールドカーブを確認する方法があります。
イールドカーブとは縦軸に金利、横軸に期間をとった利回り曲線のことです。
債券の利回り(金利)と償還期間との相関性を示したグラフで、横軸に償還までの期間、縦軸に利回りを用いた曲線グラフのこと。
利回り曲線ともいい、金利の期間構造を表し、債券投資で重要視される指標のひとつです。右上がり(償還までの期間が長いほど利回りが高い)のときを順イールド、右下がり(償還までの期間が短いほど利回りが高い)のときを逆イールドといいいます。
金融緩和時、平常時には順イールドを形成し、金融引き締め時には逆イールドを形成することが多く、イールドカーブの形状変化として、傾きが大きくなることをスティープ化、逆に傾きが小さくなることをフラット化といいます。
(大和証券より引用 https://www.daiwa.jp/glossary/YST0048.html)
*米国債イールドカーブ(参照リンク:investing.com
https://jp.investing.com/rates-bonds/usa-government-bonds?desktop=1)
相場サイクルの中での売買のタイミング
セクターローテーション
相場の局面の変動に合わせて、各セクターや銘柄の魅力度も変化します。
その変化に合わせて、都度有望な投資対象を選定する戦略はセクターローテーションと呼ばれます。
一般的に、
- 景気の拡大局面では製造装置などの設備投資関連
- 成熟局面では自動車や電機などの消費財関連
- 下降局面では医薬品などのディフェンシブ銘柄
が選好されやすくなります。
セクターローテーションに着目して投資先を選定する際、米国株を選ぶので有ればセクターETFも有力な選択肢です。
セクターETFであれば、個別銘柄を投資先として分析・選定する労力をかけることなく、投資したい業種全体に分散投資することが可能です。
バンガード社とステートストリート社がそれぞれセクターETFを供給しています。
セクター | バンガード | ステート・ストリート |
情報技術 | VGT | XLK |
一般消費財 | VCR | XLY |
ヘルスケア | VHT | XLV |
生活必需品 | VDC | XLP |
素材 | VAW | XLB |
公益 | VPU | XLU |
資本財 | VIS | XLI |
通信 | VOX | XLC |
不動産 | なし | XLRE |
金融 | VFH | XLF |
エネルギー | VDE |
リーマンショック後のセクターETF値動き
セクターローテーションに着目した投資では、景気指数や金融政策の状況を読み取りながら、現在の景気のステージがどの辺りなのかを判断する必要があります。
NBERの報告では、リーマンショック後の米国経済は2009年9月にリセッションを抜け、以降はコロナショックまで景気拡大を続けていました。
グラフはリーマンショック以降、2011年からのセクターETF別のチャートです。
リターンを比較すると必ずしも景気敏感・ディフェンシブのセクター間で、動きに相関性があるわけではないことが分かります。
ほとんどの期間で、ハイテク(VGT)・一般消費財(VCR)・ヘルスケア(VHT)はS&P500(VOO)を上回る上昇リターンを残しています。(GAFAMや製薬会社など、革新的な企業が含まれていることが影響していると考えられます)
一方で、配当利回りはエネルギー(VDE)3.6%・公益事業(VPU)2.8%・生活必需品(VDC)2.35%と、S&P500(VOO)の1.32%を大きく上回っていますが、上昇リターンでは劣後しています。
コロナショック後のセクターETF推移
次に、コロナショック前後のセクター別値動きを見比べてみましょう。
エネルギーは一貫して不調ですが、ハイテクとディフェンシブセクターは下落率が低いことが見て取れます。
セクターローテーションとの向き合い方
金融政策のトレンド転換や指標から相場の変動が読み取れる局面で、セクターローテーションを先読みしておくことは、投資タイミングを計る一つの目安となり得ます。(特に短期~中期のスイングトレードでリターンを狙う場合)
長期投資目線でも、特に暴落時の底値を予測する際などに、あらかじめ政策発言や指標などのヒントから仕込みのタイミングを測ることができれば、キャピタル・インカムともに大きなリターンを得ることに繋がるはずです。