はじめに
旅先では、移動中の時間や待ち時間など、案外手持ち無沙汰になる瞬間が多いものだ。その時の暇つぶしとしての読書は鉄板。旅行記を読んで、物語の旅の様子に思いを馳せ、そのあとの旅への期待を膨らませる。
そうして、その後の旅で待ち受けている出来事から味わえる感動もより大きくなることは間違いないと思う。
旅のお供としておすすめの本を10冊紹介したいと思います。
紹介する本
深夜特急|沢木耕太郎
言わずと知れたバックパッカーのバイブル。
時間軸は古いが、活き活きとした旅の描写は今の時代でも色褪せることなく旅情を掻き立て、読者の心を掴む。出版された直後は、仕事を辞め世界に旅立つ若者が続出したとかしなかったとか。
かくいう僕も、この本がきっかけで旅にハマった。香港から乗合バスでロンドンを目指す旅が複数冊に渡って描かれているが、やはり熱いのは香港から中東に至るまでだろう。
遠い太鼓|村上春樹
現代の日本を代表する作家、村上春樹による、ギリシャでの創作生活が描かれたエッセイ。
地中海に浮かぶ美しい島々での長閑で平穏な日々が綴られている。一度でいいからこんな暮らしをしてみたいと読んでいてとても羨ましく感じたことが強く印象に残っている。
ページ数はそこそこ多く、内容もどちらかと言えば単調だが、何故かめくる手が止まらないほど引き込まれた本。
エグザイルス |ロバート・ハリス
ボヘミアンの先駆者的な日本人と言えば、この人ロバート・ハリス。
ラジオ番組のJ-WAVEなどで活躍され有名になったが、海外生活も長く、10代で日本を飛び出しアメリカ、オーストラリアに渡って青春時代を過ごした。その自叙伝的小説だが、その半生は冒険的なエピソードに満ちており、男なら誰しも憧れを抱くに違いない。
旅をする木 |星野道夫
クマに襲われ帰らぬ人となった伝説の写真家・星野道夫氏のエッセイ。
アラスカに惹かれ、毎年のように当地を訪問し、動物を追う生活をしていた時の様子が描かれている。文章はとても繊細で美しく、アラスカの四季やそこに暮らす動植物、そして人々との触れ合いの描写を見ると、心が洗われる感じがする。
星野氏の深い感性と優しさが滲み出ており、何度読んでも癒しを与えてくれる本。早くに亡くなられてしまったことが本当に惜しく感じる。
アルケミスト|パウロ・コエーリョ
世界でベストセラーになった、パウロ・コエーリョの作品。羊飼いの少年が、大いなる何かを探し求めて、南ヨーロッパ・アフリカの大地を旅する物語。
万事塞翁が馬というように、人生に起きる全ての出来事には意味があり、人は運命に導かれて生きている、というメッセージが作品全体を通して伝わってくる。
読後は、人生に対して前向きになれるようなカタルシスがある。
人間の大地|サン=テグジュペリ
航空黎明期に郵便飛行の先駆者として活躍した、サン=テグジュペリによる自伝的小説。
星の王子様が最も有名だが、他の作品も負けず劣らず素晴らしい。自身がパイロットとして経験した出来事が主に小説内で描かれている。
パイロットとしての職務を全うするために、命懸けで自然と対峙する中で生まれた崇高なストーリーが詩的に描かれており、人生の本質を考えさせられる非常に上質なものだと感じる。僕の職業観もこの本に大きく影響された。
旅のラゴス|筒井康隆
SF的な要素が色濃く入った冒険小説。
筒井康隆ならではの奇抜な発想がこの作品にも反映されており、その世界観にはどうしても引き込まれてしまう。ボリュームも多過ぎず、気軽に旅の世界に心を向わせられる本。
海流の中の島々|アーネスト・ヘミングウェイ
ノーベル文学賞を受賞したアーネスト・ヘミングウェイの作品。
代表作は老人と海だが、個人的にはこの作品が好きだ。内容はマッチョな主人公が戦渦のカリブ海をゆくというものだが、平和で美しいカリブの海と戦争というリアルの意味対極な状況が混在する中で、登場人物が織りなす人間模様も含めて、冒険的に心を沸き立たせるものがあるように感じた。
ヘミングウェイゆかりの地、キューバのハバナを訪ねる際には是非読んでほしい。
深い河|遠藤周作
作家・遠藤周作の作品は、キリスト教的な観念が色濃く反映されているのが特徴的だ。
しかし、この作中で描かれているのはヒンドゥー教の国インド。タイトルの深い河というのは、聖地ガンジス川を連想させる。ストーリーは、様々なバックグラウンドをもった登場人物が、それぞれの成り行きから、運命的にガンジス川に導かれていくというもの。
日本人は基本的に宗教に疎いが、この本を読めば、宗派の垣根を超えた宗教そのものが人々の人生に与える意味がより分かるようになるかもしれない。
百年の孤独|ガルシア・マルケス
南米の架空の村マコンドの盛衰の100年の歴史を、開拓者ブエンディア一族の数奇な運命と共に描いた長大作。
一族が数世代に渡って運命に翻弄されていく様子は、現実離れした描写も多いが、人間の業とは何かを考えさせられる。また、作中の風景や生活、その表現の独特さから、南米の匂いのようなものが感じ取れる気がした。
あと気になったのが、登場人物のややこしさ。似たり寄ったりの名前の登場人物が家系の中で複数人登場したりして、誰が誰かわからなくなる。
意図してなのかは不明だが、そういう不思議さも含めて、南米という地への興味を掻き立てられる一冊。