株式市場の動きを左右する要素の一つとして、政府機関から発表される経済動向に関する指標や要人会合が挙げられます。
特に世界経済に多大な影響力を及ぼす米国経済に関連する発表は、多くの注目を集め、米国経済のみならず、日本を含む各国の金融相場をも動かします。
この記事では、米国経済に関する重要イベント・指標をメインに、日本経済の関連指標についても見ていきたいと思います。
日米の経済指標発表スケジュール
米国経済の主な重要イベント・指標
FOMC(米連邦公開市場委員会)
アメリカの金融政策を決める最高意思決定機関で、年に8回会合が行われます。
アメリカ経済を舵取るための会合であり、注目度は高いです。
- 構成メンバー
- FRB理事 7名
- 地区ごとの連邦準備銀行総裁 12名
- 開催日
- 原則年に8回(約6週間ごと)
- 公表内容
- 経済の見通し
- 政策金利の利上げ/利下げの見通し
○FOMC議事録
FOMCは開催から 3週間後には議事録が公表されます。声明ではうかがえなかった細かな議論の内容などが判明するケースもしばしばあり、株価や為替相場を動かす要因となります。
3月、6月、9月、12月の会合では、メンバーによる経済見通しと政策金利見通しも同時に公表されるほか、会合終了後には FRB議長の記者会見が行われるため、さらに注目度が増します。
公表内容が事前の予想と異なると、株式市場や為替市場などに大きな影響を及ぼします。
ジャクソンホール会議
米国のカンザスシティー連邦準備銀行がワイオミング州のジャクソンホールで毎年夏に開く金融・経済シンポジウム。
米連邦準備制度理事会(FRB)議長など各国中央銀行の要人や経済学者らが出席・議論し、金融政策の方向性を示唆する場として注目されます。
2021年8月に開催された会議では、FRB議長のパウエル氏の講演で、
- テーパリングの開始について「年内開始」前向きな見解が示された一方
- 経済活動の回復をしばらく注視し、事実上のゼロ金利政策の解除には慎重である
という姿勢が示されました。
メジャーSQ(トリプルウィッチング)
取引期間が決まっている先物取引やオプション取引の決済に関わるSQも、短期的な需給に影響を及ぼし、株価を動かす要因となります。
「特別清算指数」「最終清算指数」
株価指数先物取引、または株価指数のオプション取引などを、最終的な決済期日で決済するための清算価格(指数)のことを示します。
先物取引やオプション取引は、その期間内に決済しないと最終決済日にSQの値(SQ値)で強制決済されることになります。
この最終決済日のことを「SQ日」といいます。
取引量が増加するため値動き(ボラティリティ)が高まり、波乱の様相を呈することもしばしばあります。
米国では、各先物取引・オプション取引の取引最終日が異なりますが、中でも最も注目されるのが株価指数先物の取引最終日です。
株価指数先物の取引最終日は、
3月・6月・9月・12月(限月)の第3金曜日となっており、これは
トリプルウィッチング(Triple witching)
米国市場で株式先物取引、株価指数先物取引、個別株オプション取引の取引最終日が重なる日
とも重なるため、特に要注目です。
ちなみに、
日本市場では、メジャーSQと呼ばれる3、6、9、12月の第2金曜日の株価指数先物とオプション取引のSQが要注目です。
SQを過ぎるとポジション調整を巡る取引が一巡するため、株価がSQ値を上回って引けると相場の地合いが強いと言われることがあります。
米雇用統計
アメリカの雇用情勢を調査した経済指標。
おもな項目は、「非農業部門雇用者」の前月比増減数、「失業率」、「労働参加率」、「時間あたり平均賃金」、「週平均労働時間」などですが、「非農業部門雇用者数」と「失業率」は特に注目されます。
- 発表項目
- 非農業部門雇用者数
- 失業率
- 労働参加率
- 平均時給(時間あたり平均賃金)
- 週平均労働時間
- 不完全雇用率
- 発表タイミング
- 毎月第 1金曜日の日本時間 21時半(アメリカ冬時間は 22時半)
特に注目すべきは「非農業部門雇用者数」「失業率」「平均時給」です。
市場の関心が極めて高く、市場の反応も大きくなりがちです。
その理由として、
が挙げられます。
米国内総生産(GDP)
米商務省が四半期ごとに発表する統計で、
アメリカ内で期間内に生産された最終製品(完成品)やサービスなどの付加価値の合計を、金額で表したものです。
市場は「経済成長率」(GDP成長率)に注目しています。
- 発表機関 米商務省
- 発表時期(四半期ごと)
- 第1四半期(1 ~ 3月分): 4月(速報値)、 5月(改定値)、 6月(確報値)
- 第2四半期(4 ~ 6月分): 7月(速報値)、 8月(改定値)、 9月(確報値)
- 第3四半期(7 ~ 9月分): 10月(速報値)、 11月(改定値)、 12月(確報値)
- 第4四半期(10 ~ 12月分): 1月(速報値)、 2月(改定値)、 3月(確報値)」
「経済成長率」が予想を上回れば、株価上昇・ドル買い傾向が強く、下回れば株価下落・ドル売り材料となります。
米小売売上高
アメリカの百貨店を含む、小売・サービス業の月間の売上高を集計して米商務省が発表する統計です。
- 発表機関
- 米商務省
- 内容
- 百貨店やスーパーなどの小売・サービス業の月間売上高を集計した数値
- 発表時期
- 毎月第2週(夏時間:日本時間午後 9時半、冬時間:日本時間午後 10時半)
- 目的
- GDPの 70%以上を占める個人消費のトレンドを把握する
前月比の増減率に注目します。 GDPの7割以上を個人消費が占めるアメリカでは、小売動向が景気のバロメーターとして見られます。
- 前月からの伸び率が予想を上回れば、景気好調との見方につながり、「株価上昇・ドル買い」
- 一方、予想を下回る伸びにとどまったり、予想外に減少したりすると、「株価下落・ドル売り」
の傾向があります。
ISM指数
アメリカ国内企業の景況感を表す経済指標です。
ISMとは、米供給管理協会( Institute for Supply Management)の略です。
- 発表機関
- 米供給管理協会( Institute for Supply Management)
- 内容
- 製造業・非製造業の購買・供給管理の責任者に向けてアンケート調査を行い、結果を指数化した経済指標
- 発表時期
- 毎月第 1営業日(製造業指数)、毎月第 3営業日(非製造業指数)
- 目的
- 前月の景況感を把握する
ISM指数には、「 ISM製造業景況指数」と「 ISM非製造業景況指数」の 2種類があります。
「ISM製造業景況指数」
50%が好況・不況の分岐点とされ、 50%を上回ると好況、 50%を下回ると不況を示します。
ISM製造業景況指数が注目される理由として、
- 毎月第 1営業日に発表されるということで速報性が極めて高い
- アメリカ国内の景気に先駆けて変動する傾向がある
ということが挙げられます。
具体的には、
「ISM製造業景況指数が底入れすると数カ月遅れて景気が底入れする」といった具合で、アメリカの景気の先行指標と位置付けられています。
なお、過去の傾向から、FRBは指数が50%を上回ってから利上げを行うという点は押さえておくといいかもしれません。
相場への影響は、おおよそ次の通りです。
- 指数が予想を上回れば景気に対する楽観的な見方が広がり、株高・ドル買い材料
- 下回れば先行きに対する悲観的な見方につながり、株安・ドル売り傾向
米消費者物価指数(CPI)
一般消費者世帯が購入する商品とサービスの総合的な価格の動きを指数化したもので、アメリカのインフレ動向に関する最も重要な統計の一つです。CPI = Consumer Price Index。
- 発表機関
- 米労働省
- 内容
- 一般消費者世帯が購入する商品とサービスの総合的な価格の動きを指数化した経済指標
- 発表時期
- 毎月中旬
- 目的
- アメリカのインフレ率を分析
価格の変動が激しい食品やエネルギーを除いた物価指数(米消費者物価コア指数)も同時に発表されます。
相場への影響は、過去と比較して変化率が大きくプラスの場合、
- 短期的には利上げ期待などから株価上昇は抑えられ、ドル買いとなるケースが多い
- 中長期的な視点では「インフレ = 物価上昇」でドル安要因、株価は上昇基調
の傾向となります。
個人消費支出価格指数(PCEI)
GDPを構成する要素の1つである「個人がモノやサービスに対して使った金額」である個人消費支出( PCE)から算出した物価指数です。(= Personal Consumption Expenditures Price Index)
また、個人消費支出価格指数から価格変動が大きいエネルギーと食品を除いた指数が、 PCEコア指数(コア PCE、 PCEコアデフレーターともいう)です。
消費者物価指数(CPI)と比較すると、個人消費支出価格指数(PCEI)の方が、
- 調査対象が広い
- 実際の物価動向をより強く反映する
という特徴があり、FRBの金融政策決定にも大きく影響すると言われています。
FRBは、インフレ目標として個人消費支出価格指数(PCEI)のコア指数の前年比上昇率2%を目安に、金融政策の運営を行っています。
米住宅着工件数
米商務省が毎月中下旬に発表する統計で、文字通り建設に着手した住宅の戸数を年率換算(このペースで推移すれば 1年間で何件になるかを換算した戸数)したものです。
- 発表機関
- 米商務省
- 内容
- 該当月に建設が開始された新築住宅件数の年率換算値
- 発表時期
- 毎月中下旬(17日頃)
- 目的
- 景気関連の先行指標という位置づけで、アメリカの景気動向を把握
個人消費への波及が大きいという点で、アメリカ景気のバロメーターの1つと言われます。
米消費者信頼感指数
アメリカの民間調査機関であるコンファレンスボードが毎月末に発表する、消費者の意識調査に基づいた消費者マインドを指数化した経済指標です。
経済、雇用、所得の景況感(以前と比べて好転/悪化/停滞)についての調査が行われます。
- 発表機関
- コンファレンスボード(民間調査機関)
- 内容
- 消費者マインドを指数化した経済指標
- 発表時期
- 毎月末
具体的な調査の方法は、5000人の対象者(消費者)に対して、
- 現在の景況感がどうであるか
- 6カ月後の景況感がどうなっていると思うか
についてアンケート調査を行い、
その結果を1985年時点の景況感 = 100として指数化し、発表します。
*消費者信頼感指数が1985年を基準年にしているのは、アメリカでは1985年が、景況感の頂点でも底でもない、ちょうど中間地点の年だとみなされているからです。
アメリカの個人消費は GDPの7割を占め、
消費者マインドの変化を示す統計は景気敏感指標として重要視される傾向にあります。
貿易収支
米商務省が毎月上旬に発表する統計で、 1カ月分の輸出入金額の収支を示すもの。
アメリカの貿易収支は40年以上赤字が続いており、貿易赤字が恒常化しています。
日本経済の主な重要指標
日銀金融政策決定会合
金融政策の運営に関する事項を審議・決定する会合を金融政策決定会合といいます。
原則として年に8回行われ、会合終了後ただちに決定内容を発表します。
- 開催日
- 年8回(各会合とも2日間開催)
- 議事内容
- 金融市場調節方針
- 基準割引率、基準貸付利率および預金準備率
- 金融政策手段
- 経済・金融情勢に関する基本的見解等
- 決定内容の公表時期
- 会合終了後、ただちに決定内容を公表する。政策変更がない場合も同様。
- 目的
- 日銀の金融政策について話し合う
日銀短観
正式名称は「全国企業短期経済観測調査」で、
統計法に基づいて日本銀行により行われる統計調査です。
- 目的
- 全国の企業動向を的確に把握し、金融政策の適切な運営に資すること
- 対象
- 全国の大手企業と中小企業、製造業と非製造業など約1万社の企業
- 時期
- 四半期ごと(3、6、9、12月)に実施
- 企業が自社の業況や経済環境の現状・先行きについてどうみているか
- 売上高や収益、設備投資額といった事業計画の実績・予測値など、企業活動全般にわたる項目
について調査しています。
経営者の考え方が集約されており、経済予測に適した指標と言われます。
なお短観は、国内外で利用されており、海外でも”TANKAN”の名称で広く知られています。
景気動向指数
景気全体の現状を知ったり、将来の動向を予測したりするときに使われる経済指標です。
産業、金融、労働など、経済に重要かつ景気に敏感な28項目の景気指標をもとに指数が算出されています。
指数には、コンポジット・インデックス(CI)とディフュージョン・インデックス(DI)があります。
- CI
- 構成する指標の動きを合成することで景気変動の大きさやテンポ(量感)を表す
- 2015年を100とする
- 前月の指数が増加 ▶︎ 景気回復
- DI
- 上昇指標の割合が数カ月連続して50%を上回っているとき ▶︎ 景気拡大
- 50%を下回っているとき ▶︎ 景気後退
なお、景気動向指数は
の3つの指数に大別されます。
購買担当者景気指数(PMI)
英語表記「Purchasing Manager’s Index」
製造業やサービス業の購買担当者を調査対象にした、企業の景況感を示す景気指標のひとつです。
企業の購買担当者に新規受注や生産、雇用の状況などを聞き取り、景況感についてアンケート調査した結果を指数化
製造業は、製品の需要動向や取引先の動向などを見極めて仕入れを行うため、製造業PMIは今後の景気動向を占う「先行指標」とされています。
なお、PMIは、「50」を景況感の分岐点としており、これを下回れば景況感が悪く、これを上回れば景況感が良いとされています
発表時期がGDPなど他のマクロ経済指標より早いため速報性が高いことも特徴的で、
マーケットでの注目度も高いです。
その他の日本の主な経済指標
その他にも、各種の経済指標が発表され、マーケットに一定の影響を及ぼしています。
- 国内総生産( GDP)
- 国際収支(貿易収支/経常収支)
- 鉱工業生産
- 工作機械受注
- 失業率
- 有効求人倍率
- 住宅着工件数
しかし、一般的に日本の経済指標への反応度は、日本市場を見た場合でも、米国のそれと比べて弱いと言われています。
その理由は以下の通りです。
特に注目したい指標
最後に、マーケットへの影響度が高く、特に注目すべき指標をおさらいしたいと思います。
これらの発表結果にサプライズ要素が含まれていた場合、マーケットは大きく変動するため、運用状況や売買機会に大きく影響します。
機会損失を減らすためにも、日々発表される経済指標をこまめにチェックすることが大切ですね。
日々の金融・経済の動向にアンテナを張り、マーケットに常に居続けることが、将来の資産形成に寄与すると信じています。
投資についての勉強の毎日です。