はじめに
終息の見えないコロナ禍で、移動の制限が続く昨今。
なるべく人との対面接触を控える生活様式が推奨され、どこに行くにも感染対策に気を使わなければなりません。
以前のような、自由に海外を往来できる日々が恋しい限りです。
いつ終わるともしれないこの状況で、気分転換のために異国の雰囲気を少しでも味わいたいと感じる人も多いのではないのでしょうか。
この記事では、異国情緒を感じられる&読み出したら止まらない中毒性のある小説をご紹介したいと思います。
紹介する本
月と6ペンス サマーセット・モーム (タヒチ)
悲劇の画家、ゴーギャンの人生をモチーフにしたと言われている小説。
平凡ながら平穏で満ち足りた生活を送っていた主人公が、ある時を境に、人生の全てを捨てて自らの情熱のままに創作生活に打ち込むようになる。
その様子はかつてとは全く別人で、狂気に取り憑かれたとしか言いようのないものでした。
あそこまで人を変えるものは何なのか、その情熱の先にあるものを知りたいがために、ぐいぐい引き込まれていきました。
主人公は物語の途中でタヒチに移住し、ジャングルの奥で創作活動をするようになるのですが、その様子が南国の想像力を掻き立てる描写となっています。
特に物語終盤、晩年の部分が圧巻でした。
読後は、自分の人生について見つめ直さなければと思わせられる、何か熱いものが体に流れる感覚があったことを覚えています。
ムーンパレス ポールオースター (アメリカ / ニューヨーク)
現代のアメリカを代表する作家の1人、ポール・オースターの処女作。
家族に関するある過去を抱える青年が、人々との出会いを通じて、ニューヨークやアメリカ西部などを転々としながら、自らのルーツの秘密を解き明かしていく物語。
家族関係、喪失、孤独、再生といったキーワードは本作に限らず、他の物語にも根底で共通して描かれているテーマでもあり、決してハッピーなストーリー展開ではないけれども、重さを感じさせることなく、ある種の冒険的な好奇心を持って読み進めることができました。
読後は、大都会ニューヨークや聖地モニュメントバレーに行ってみたくてしょうがなくなってしまい、アメリカ西部を一人旅するきっかけとなった本です。
読むと何となく孤独が心地よく感じられてくる本です。
ドン・キホーテ セルバンテス (スペイン / アンダルシア)
スペインの作家、セルバンテスによる世界的な古典。
騎士道物語の読みすぎで、妄想の世界から出られなくなった郷士が自身を遍歴の騎士と名乗って、相棒サンチョ・パンサと愛馬ロシナンテとともに、世の中を正す旅に出る。
ありえない珍道中が繰り広げられますが、旅中のアンダルシアのロマン溢れる風景は、絶対自分の目で見てみたいものです。
百年の孤独 ガルシア・マルケス (南米)
南米の架空の村マコンドの盛衰の100年の歴史を、開拓者ブエンディア一族の数奇な運命と共に描いた長大作。
一族が数世代に渡って運命に翻弄されていく様子は、現実離れした描写も多いですが、人間の業とは何かを考えさせられます。
また、作中の風景や生活、その表現の独特さから、南米の匂いのようなものが感じ取れる気がしました。
あと気になったのが、登場人物のややこしさ。似たり寄ったりの名前の登場人物が家系の中で複数人登場したりして、誰が誰かわからなくなります。
意図してなのかは不明ですが、そういう不思議さも含めて、南米という地への興味を掻き立てられる一冊です。
夜間飛行 サン=テグジュペリ (南米 / パタゴニア)
『星の王子様』で有名な作家、サン=テグジュペリによる『人間の大地』と並ぶ自伝的小説。
自身が郵便飛行のパイロットとして経験した出来事が主に小説内で描かれています。
職務を全うするために、命懸けでアンデス山脈の山越えに挑み、厳しい自然と対峙する中で生まれた、詩的で美しい描写の世界は唯一無二のものだと感じます。
主人公の情熱を持って責任を全うする描写は、職業観はもちろん、大袈裟かもしれませんが人生についても一考させられる、とても上質なものだと思います。
アルゼンチンのブエノスアイレスや、パタゴニア地方を飛び回る際の風景描写も、心が洗われます。
ダ・ヴィンチ・コード(上・中・下) ダン・ブラウン (ヨーロッパ / パリ・ロンドン)
10年以上前にベストセラーとなり、映画・シリーズ化もされたミステリー小説。
ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」に隠された聖杯の秘密を解き明かすため、パリのルーブル美術館の他、ヨーロッパ各地を飛び回りながらストーリーが進みます。
読んでいると絵画や建築などの西洋文化に興味が湧くようになりました。(一時的に)
純粋にミステリーの読み物としても面白いので、同著者の他の作品もおすすめです。
神々の山嶺 夢枕獏 (ネパール / カトマンズ)
伝説の登山家ジョージ・マロリーがエヴェレスト初登頂に成功したかどうか、という登攀史上最大の謎を解くために滞在したネパールで主人公はある男と出会う。
孤高の登頂家の異名を持つその男は、命を賭して前人未到のエベレスト南西壁冬季無酸素単独登頂に挑もうとしていた。
人は何故山に登るのか。という永遠の問いが存在しますが、それに対してこの作品は言葉では表せない方向性のようなものが一つの解として提示されているように感じました。
山の世界をエンターテイメント性を持って味わうことができ、同時に胸に熱いものが湧き上がってくる小説です。
ヒマラヤの玄関口、ネパール・カトマンズの旅情も存分に感じることができます。
ガダラの豚 1・2・3 中島らも (アフリカ)
アフリカを舞台に、ある冴えない民族学者が家族を救うために奮闘するお話。
アフリカの一部では、オカルトと呼ばれるような呪術や超能力の類いのものが未だ根強く信じられているのはあまり一般的ではないが、本作ではその世界が鮮やかに描き出されている。
3部作の長編ですが、軽妙でリズミカルに物語が展開していくので、長さを感じることなく読み進められます。
自分の想像もしない世界を観ることができるのはまさに読書冥利につきます。この本はそんなことを感じさせてくれるのではないかと思います。
痛快でスッキリする小説が読みたい人には特におすすめです。
ワイルド・ソウル 上・下 垣根涼介 (南米 / アマゾン)
日本政府の国策で南米ブラジルに渡った移民の苛烈な運命と、その子孫による日本政府への復讐劇が本筋の小説。
描かれている史実は、ほとんど知られていない内容ですが、それをサスペンスの読み物として見事に昇華させられています。
テーマは重いものですが、魅力ある登場人物たちによるハードボイルドなストーリー展開は、重さを感じさせないスピード感とインパクトに溢れるものです。
アマゾンの奥地に想いを馳せられる一方、エンターテイメント性も高い作品です。
個人的には必読と思います。
プラハの春 上・下 春江一也 (チェコ / プラハ)
1960年代後半に旧共産圏のチェコスロバキアで実際に起こった、「プラハの春」と呼ばれる民主化運動にスポットを当てて描かれたフィクション。
主人公の外交員の堀江亮介が、東ドイツ人の年上の女性でプラハの春で重要な役目を果たすカテリーナと恋に落ち、同時に歴史の波に翻弄される姿を、実際の史実を取り入れながら、ストーリーが展開します。
プラハは世界有数の美しいヨーロッパの街並みが残る街ですが、本作ではその街に実在するプラハ城、カレル橋、マラ・ストラナ、バーツラフ広場など場面を移しつつ物語が展開します。
この小説を読みながらプラハを巡れば、一つ一つの風景がより意味深く味わい深いものになることは間違いありません。
ストーリーもテンポよくスリル感があり、ページを捲る手が捗ります。