地中海に浮かぶシチリア島は、イタリアの長靴型の半島の爪先のほんの少し先にある。
シチリアと言えば、サッカーで柳沢や森本が所属したクラブがあり、日本で話題になったほか、ゴッドファーザーやニューシネマパラダイス、グランブルーなどの名作映画の舞台となった地としても有名。また、地中海の海の幸をふんだんに使った料理を味わえるグルメの地でもある。
映画の世界を実際に目で見てみたいと思い、レンタカーを借りて4日間の日程で周ることにした。
1日目 カターニア〜タオルミーナ
カターニャ空港のレンタカーショップへ
カターニャ空港に到着したら、まずは早速レンタカーを借りる。ターミナルを出て5分ほどのところに事務所があるECOVIAというレンタカー屋で、事前にネット予約しておいた車を受け取る。
日本の運転免許と国際運転免許の2種類を提示して、契約書にサインするだけなので、借りる流れはそれほど複雑ではなかった。一方で、ここは貸し出し用窓口が1箇所しかなかったため、順番待ちの長蛇の列が出来ていた。
1時間半ほど待たされ、無事に借りられた車は、SEATというスペインメーカのLEONというワゴンタイプの車。僕は初めて聞いたメーカだった。若干古い感じがしたせいか、操作性はいまいちだったように思う。荷台は広々としており、車中泊をした際は快適に寝られた。
イタリアの運転事情
イタリアは日本とは逆の右側通行で、車は左ハンドルが基本。最初は戸惑いを感じたが、流れに乗ってしまえばすぐに慣れ、それ以降は違和感を感じることはほとんど無かったように思う。ただ、イタリアのドライバーの車の流れ自体に慣れるのにはしばらく時間が掛かった。かなり車間を詰めてくるし、車一台しか取れない対面通行の細い道でも無理やりスペースに車を突っ込んでくる。譲り合い精神はほとんど感じられない。中東の国々のドライブマナーに比べればはるかにマシではあるが。日本で走るのに比べて、何らかの事故やトラブルに遭遇するリスクははるかに高いので、レンタカー屋での車両保険加入は必須。
運転に慣れてきて車を快調に走らせることができるようになった頃には、すでに日が暮れかけていた。宿をとったタオルミーナの手前のジラルディーニナクソスという街までは、カターニャから高速で30分ちょっと。料金は約1ユーロ。安い。高速は照明があまり多くなく、車のヘッドランプが頼りだ。夜の帳がとっくに下りたころになんとか無事に宿に到着。
2日目 タオルミーナ〜チェファルー
グラン・ブルーの海でダイビング
タオルミーナの海は、映画グランブルーの舞台となった場所。タオ島で取ったばかりのオープンウォーターのダイビングライセンスを持って、グランブルーの海へダイビングをしてみることにした。
ダイビングショップはDivesicilyという店。ネットで見た感じ、時期によっては日本人スタッフもいるようだが、自分が訪れた時にはいない様子だった。
年季の入った送迎用のバンで港へ行き、ゴムボートへ乗り換える。インストラクターはイタリア人の長髪のおっさん。イタリア人にしてはもの静かな空気感を纏っていて、海の男の雰囲気を漂わせていた。同船になった客は、イギリス人男性とシンガポール人女性の2名。イギリス人男性は、これが人生初ダイブ。一方のシンガポール人女性はダイブマスターのライセンスを持っているらしい。なんだか凄そう。
ゴムボートで波に揺られること15分ほど、ポイントに到着。岩場に開いた洞窟周辺が今回のダイブスポット。MTの運転とは違って、機材の着脱や潜水はさすがに忘れてはいなかった。バディはインストラクターのイタリア人が務めてくれた。ダイブマスターの女の子は君は好きにやってくれって感じでインストラクターに言われていた。
海に潜ると、生憎の曇り空もあり視界はそれ程遠くまで見渡せなかったが、それでも水は透明だった。水面下は暗く静かで、魚の数はそれほど多くない。洞窟の中に入ったり、タコと戯れたりしたが、正直言ってそこまで見応えのあるポイントではなかった。ただ海の静けさだけが印象に残り、それはグランブルーの映画のシーンの海のイメージそのものだった。
タオルミーナ観光
タオルミーナは美しい海岸線と急斜面に広がる街並みがあるリゾート地。ダイビングを終え、車で一気に崖を登りきると、そこには急斜面にへばりつくようにして街が広がっていた。
一番の見どころは海を見渡す崖の上にあるギリシャ劇場(入場料10ユーロ)。そこからの眺めは絶景だった。
街のメインストリートのウンボルト通りには、レストランやブティックが立ち並んでおり、たくさんの観光客が往来していた。なお、リゾート地なので物価は高めだった。街中の広場では結婚式の披露宴が行われており、新郎新婦が音楽隊の奏でる音楽に合わせてダンスを踊っていた。さながら映画の世界だった。
タオルミーナを後にして、シチリア北部の街チェファルーを目指す。距離にして200km超。最初は下道を進んだが、街中の狭い路地道でのイタリア人の荒っぽい運転で早々にギブアップし、高速中心に切り替えた。高速料金は約10ユーロ。この区間は割と高かった。
3日目 チェファルー〜パラツッオ・アドリアーノ〜シラクーサ
チェファルー
目を覚まし寝袋から顔を上げると、フロントウィンドウ越しに朝焼けに染まる空が見えた。漁港はすでに慌ただしく人が動き回っている。昨晩は、チェファルーの外れにある港の隅っこに停めた車の中で寝た。ワゴンの荷台はスペースがあるだけに、この旅初の車中泊は中々快適なものだった。
チェファルーはシチリア北部にある古都。海辺に聳える切り立った岩山の麓に街が広がり、州都パレルモからのアクセスも車で1時間弱と良く、リゾート地として人気だ。また、街中の列車駅は映画ニューシネマパラダイスで、主人公のトトが列車に乗り故郷を離れるシーンのロケで使われた。
朝の時間に街を散歩。洗濯物を干すお婆さんや店の準備をする商店主、子供を学校に送り出す家族など、素朴な生活の風景がとても印象的だった。海では素潜り漁師が手に銛を持ち漁をしていた。観光箇所としては、旧市街にあるカテドラルと、岩山のてっぺんにある城砦が見所のようだ。
2時間ほど街を散策し、広場のテラスで朝食を取った後は、次なる目的地のパラツッオ・アドリアーノという内陸部の街へ向け車を走らせる。
パラツッオ・アドリアーノ
シチリアの内陸部はひたすら丘陵が広がっており、木がほとんど生えていない農耕地で、ところどころ家々がぎゅっと集まって街を成しているのが見える。どこまでも続くその景観はなかなか雄大なものだった。
3時間ほど車を走らせ、パラツッオ・アドリアーノへ到着。とても小さい街で、10分で端から端まで歩けてしまいそうなほど。何処にでもありそうな素朴な田舎町だが、実はここが映画ニューシネマパラダイスの舞台となった街。
セットとして設置された映画館以外は、街中には映画の中の世界そのまんまの風景が残っている。中央広場に面した建物には、こじんまりとだが、ニューシネマパラダイスの博物館があり、映画で使われた小道具や撮影当時の様子の写真などを見ることができる。また、受け付けは隣の建物の中のツーリストインフォメーションにある。中には純朴そうなおばあちゃんが1人座っており、博物館に案内してくれた。博物館内は、映画のあのBGMが流れており、映画の中の郷愁を掻き立てられた。
その後は街を散策し、映画の中のシーンと重なる風景を探し歩いて見た。
本当に小さな街なので、じっくり見て回っても2時間あれば十分だった。街にある何軒かのレストランの中で、ツーリストインフォメーションで紹介してもらったレストランで昼食を取った後は、シチリア東海岸の古都シラクーサへ向かってのドライブ。ちなみに昼食はボロネーゼのペンネ。味は至って普通だったが、付け合わせのミートボールが美味だった。
シラクーサへ
シラクーサへの道は、途中まではひたすら内陸の田舎道。どこまでも広がる丘陵地帯をひたすら進む。景色は最高。幾つもの丘を越え、幾つかの街を通り過ぎて、ようやく高速道路へ。あとはシラクーサまであっという間だった。
到着は夜になってしまったので、観光は翌日にして夕食を食べに街へ繰り出す。宿がクーポンを出してくれたレストランに入り、シーフードスパゲッティを注文した。20分ほど待ったのちに目の前に現れたのが、トマトベースのソースに絡められた麺の上にムール貝と大きなエビが盛り付けられたスパゲッティ。これが信じられないほどに美味しかった。間違いなく人生で食べたナンバーワンのパスタ。心の底から感動した。8 O’clockという名前の店で、中央駅から旧市街方面へ歩いて10分ほどの所にある。シラクーサを訪れる機会がある方は試しに寄ってみてください。おすすめです。ちなみにLol Hostelに宿泊すると15%のディスカウントを受けることができます。
4日目 シラクーサ〜カターニア
シラクーサ観光
シラクーサは地中海に面した港町。海に突き出した旧市街にはローマ時代の城砦が残り、マーケットは魚介類やフルーツ、香辛料の店が賑わいを見せている。また、街中には大規模なローマ劇場が残っており、観光の一つの目玉となっている。中心には広場と大聖堂があり、なかなか迫力があった。
道を奥にどんどん進むと海に面した遊歩道に出た。たくさんの観光客が往来し、地元民が海に釣り糸を垂らしている。海をのぞき込むと透き通ったコバルトブルーの水面下に小魚の群れの影が至る所に見える。ダイビングで海に潜ったときはあまり実感できなかったが、海はとても豊かのようだ。
カターニア空港へ
シラクーサの観光を終え、カターニャ空港のレンタカー屋へ戻る。シチリアドライブに要した費用は4日間のレンタル料金が約12,000円で、ガソリンは走行距離800キロ強でこちらも約12,000円。高速代が1,600円でトータルがおよそ25,600円。また、返却の際に側面のドアに2か所のスクラッチ痕があることを指摘され、約45,000円の求償を受けた。加入していた保険は適用対象が135ユーロ以上で今回は保証が受けられないとのことで、泣く泣く自己負担する羽目に。フルプロテクションは1日40ユーロと高かったのでケチった結果がこれ。皆さんもリスクヘッジは十分に。
終わりに
4日間レンタカーで巡ったシチリア。州都パレルモや古代遺跡が残るアグリジェントなどまだまだ見てみたいところもたくさんあったが、映画で見て憧れを抱いていたシチリアの風景を見ることができ、充実した時間を過ごせた。
タオルミーナの海や、チェファルーの朝の情景、素朴なパラッツォアドリアーノの村、どこまでも広がる内陸部の丘陵などの数々の美しい風景、シラクーサで食したイタリアンの美味しさなどは抱いていたシチリアのイメージそのものだった。
多少のトラブルはあったが、小回りの利くレンタカーでこそ実現できた旅だったと思う。シチリアドライブ、おすすめです。