【株式投資】買い場はいつ?テーパリング開始と金融相場への影響<米国&日本>

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2021年8月末のジャクソンホール会議も終わり、9月のFOMCで年内のテーパリングがほぼ確定的な見解が出されました。

コロナショック以降続いた量的緩和からいよいよ潮目が変わろうとしています。

この記事では、前回のリーマンショックからの回復過程でのテーパリングの経験も踏まえつつ、今後予想される金融引き締めの過程と、相場の変動についてのイメージを持ち、買い場となる調整時期を探っていきたいと思います。

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FRBによる金融政策

まずは金融政策の基本スタンスを振り返りたいと思います。

中央銀行(米国ではFRB)は、景気状況に応じて市場への資金供給量(マネーサプライ)を調整し、市場の健全性を保とうとします。具体的には、国債の売買や短期金利操作などの手法を取りつつ金融相場をコントロールします。

  • 景気低迷時では、「量的緩和」
  • 景気過熱局面では、「金融引き締め」

の為の政策が取られます。

「量的緩和」

中央銀行が国債を買い入れて市場の通貨供給量を増やすことで、金利を下げずに景気浮揚を狙う

「金融引き締め」

政策金利や預金準備率を引き上げたり、中央銀行が保有している国債などの資産を売却・圧縮したりすることで、市場の通貨供給量を減らし、経済活動を引き締める(抑える)。

中央銀行が実施してきた量的緩和などの金融政策を、段階的に引き締めていく手法を「テーパリング(Tapering/徐々に減らしていく)」といい、金融相場にとって重要なトレンド転換点となります。

テーパリングとは

英語の「taper(先細る)」から生まれた言葉で、狭義には中央銀行による国債買い入れの縮小開始を指します。

金融引き締めのステップとその影響

金融引き締めの全体像は以下の通りです。

金融引き締めのステップ
  1. 量的緩和
  2. 量的緩和縮小開始(テーパリング開始)
  3. 量的緩和縮小終了(テーパリング終了)
  4. FF金利の利上げ開始
  5. 保有資産の段階的縮小開始(B/S縮小)

2021年9月現在は、ちょうど2に差し掛かる段階です。

では、そもそも何故金融引き締めが必要なのか、という部分も見直してみたいと思います。

過度な金融緩和によるリスク

金融緩和でマネーサプライが増加することで、経済には以下の影響が及びます。

  • 量的緩和政策下における景気の回復局面ではインフレが過剰となりやすく(FRBは通常2%をインフレ目標)資産価格が実質価値以上に上昇してバブル化しやすい
  • 長引く低金利から財務規律が緩み、国家や企業の債務リスク増大
  • 中央銀行が本来目指す目標である実体経済の活性化という目標に逆行する

金融政策の転換指標「リバーサル・レート」

米国プリンストン大学のマーカス・ブルネルマイヤー教授らが発表した経済理論によれば、

金融緩和が長期化して金利の引き下げがある一定の水準まで達すると、金融緩和よりむしろ金融引き締めの力が働いて、金融政策が逆効果になってしまうといいます。

その転換点となる金利水準は「リバーサル・レート」と呼ばれています。

リバーサルレートと仕組み

リバーサルレートとは?

利下げの効果が反転(reverse)する現象、またはそのような低金利水準のこと。

金融緩和によって金利が低下すると債券価格が上昇、民間銀行が保有する長期国債などに含み益が発生

 ▶︎ 金融緩和の開始当初は銀行は積極的な融資拡大に乗り出すことが可能です。

金融緩和が長期化すると、その過程で銀行の保有債券は順次償還を迎えるため、含み益は徐々に減少。

 ▶︎ 市中金利の低下による企業や個人の資金需要が十分に増加しない場合、貸出金利の低下に歯止めがかからなくなり、貸出金利と預金金利の差である「預貸金利ざや」で利益が出なくなる

採算性を確保するため、

銀行は貸出金利を上げるか融資を絞り込む結果、意図された金融緩和とは正反対の金融を引き締めるような行動をとるようになります。

行き過ぎた金融緩和は、経済自体の本来のメカニズムを歪め、バブルの発生や将来的な金融危機を起因させることになりかねません。

金融引き締めは、経済を正常に維持するために必要不可欠なんですね。

では、逆に金融引き締めを開始することで相場にはどのような影響が出るのでしょうか。

短期的な影響

短期的にリスクとして挙げられるのが、テーパリングです。

テーパリングのリスク

テーパリングのタイミングを見誤ると市場が混乱し、2013年5月に米国で起きたような、「テーパータントラム(Taper Tantrum/市場のかんしゃく)という現象が起こるリスクがあります。

リーマンショック後の大規模な量的緩和が続く状況下では、実際に

バーナンキ・ショック(Bernanke shock)」と呼ばれる混乱が起きました。

FRBが市場の予想より早いペースで資産購入の縮小を示唆したことから、大規模な金融緩和に支えられていた金融市場に動揺が広がったためで、

  • 株式相場の大幅な下落
  • 長期金利が急騰
  • 新興国市場からの資金流出による通貨安

など大きな混乱の様相を呈しました。

なお、

現在のFRBのパウエル議長は、市場との対話をかなり上手に行なってきた為、今回のテーパリングによる大きな混乱が起こる可能性は低いとの見方が広がっています。

中長期的な影響

①経済活動の抑制

中央銀行による国債買い入れの縮小は、需給緩和による国債価格の下落(利回りの上昇)要因となります。

金利が上昇した結果、金融機関が以前より高い金利で資金を調達することになり、企業や個人の資金調達が不利になります。

投資活動が抑制され、資金需要が低下すると徐々に経済活動も抑制されていきます。

その結果、企業価値を反映する株価も低下します。

②株式市場からの資金流出

低金利環境では債券の利回りが低くなるため、投資家の関心が株式市場に向き、株価を押し上げます。

一方、金利が上がると債券の魅力が増し、投資家の関心が株式から債券へ流出する傾向があります。

特に値下がりリスクのある株式などは売却され、株価が下落します。

では、前回の中長期的な金融引き締めプロセスの中で、金融相場への影響はどうだったのでしょうか。

前回のテーパリングの相場への影響

リーマンショックからの回復過程での、米連邦準備制度理事会(FRB)による金融引き締め政策は次の通りでした。

前回の金融引き締めの流れ
  • 12年9月〜 / 量的緩和第3弾(QE3)
  • 13年5月〜 / テーパリング示唆(バーナンキ発言)
  • 13年12月〜 / テーパリング開始が決定
  • 14年1月〜 / 月850億ドルを100億ドルずつ縮小を開始
  • 14年10月 / テーパリング終了
  • 15年12月〜 / 利上げ開始(2年間で段階的に4回)
  • 17年10月〜 / バランスシート縮小(国債売却)開始

続いて、米国長期国債・米ドル円為替・日経&ダウ平均の推移をそれぞれ見ていきましょう。

米10年国債利回りの動き

  • 2013年5月1日 / 1.63%水準
  • 5月22日(バーナンキ発言)以降 / 上昇ペースが加速
  • 2013年末 / 3%台
  • 2014年1月(テーパリング開始)/ 利回りは緩やかに低下
  • 2014年末 / 2.17%水準まで回復

テーパリングで国債買い入れの縮小が始まったタイミングでは、長期金利は低下基調となったんですね。これは先のバーナンキ発言後の金利上昇に織り込み済みだったと考えられます。

ドル円為替相場

  • 2013年5月1日(バーナンキ発言)/ 円高が進行し、94円31銭水準(安全資産である円への一時退避)
  • 2013年5月以降 / 横ばい推移が続く
  • 2013年末 / ドル高・円安が進み、105円台を回復
  • 2014年(テーパリング期間) / ほぼ横ばい
  • 2014年11月(日銀が追加緩和決定)/ ドル高・円安が加速し、年末には120円近辺へ

リーマンショック以降はまだ円が安全資産として機能しており、テーパリングが発表されても一時円高が進行しました。しかし今回は国債買入の発表がすぐにドル高に結びつくと想定されています。

株式市場の動き

  • 2013年5月22日(バーナンキ発言)〜 / 日経・ダウ平均ともに一時的に下落
  • 以降2013年末にかけて持ち直し
  • 2014年(テーパリング期間)  / 日経平均は上値の重い状況
  • 2014年11月(日銀追加緩和)/ 日経平均は年末にかけて持ち直し、ダウ平均は何度か調整が入ったものの、底堅さを維持

*2014年の年間上昇率は、両指数とも7%を超えました。テーパリングに対しても市場は比較的落ち着いてこれを受け止め、少なくとも強いリスクオフ(回避)の反応はみられませんでした

期間中、米10年国債利回りは緩やかに低下し、ドル円は横ばい推移を示しました。

また、日米株価も落ち着いた反応でした。(つまり当局と市場の十分な対話がなされればテーパリングの混乱は防止可能)

2021年内のテーパリング開始が確定的となり、9月末時点でナスダックをはじめハイテク中心に軟調な市況が続いています。裏を返せば実体経済の回復へのお墨付きでもあります。しばらくは様子見で、大きく下がったところを狙って購入する形でしょうか。

21年9月以降のスケジュールと見通し?

8月末の「ジャクソンホール会議」では、

米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は資産買い入れの段階的削減策、いわゆるテーパリングについて「年内実施が適当と考える」と発言しました。

これで、早ければ次回9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)、遅くとも12月のFOMCまでにテーパリング開始が決定される可能性が高まりました。

しかし、9/3に発表された8月の雇用統計の発表では、7月と比較して数値が悪化しており、これを受けテーパリング開始も年末までずれ込む見込みが高まっています。

金利引き上げ時期については現段階では不透明な状況ですが、

少なくともFRBは現在、2023年末まで実質ゼロ金利政策を維持するとの見通しを示しています。

(一方でFOMCの参加者の見通しでは、2023年には2回の政策金利(FF金利誘導目標)の引き上げが予想されています。)

ちなみに前回を振り返ってみると、テーパリング開始から利上げまでは約2年かかっています。

テーパリング開始後の株式相場の傾向と買い場

前回の相場の調整タイミングは、金融引き締めが進展するポイントとほぼ連動しています。

狙い目となる調整タイミングはおおよそ次の通りと思われます。

仕込みのタイミング
  1. 国債買い入れの縮小(テーパリング開始)
  2. 政策金利(FF金利)の利上げ
  3. 国債売却によるバランスシート縮小

注目セクターと要注意セクター?

特に成長期待が高くPER(株価収益率)が高水準にあるハイテクグロース株にとっては長期金利上昇がマイナス要因となり、調整局面に入る可能性があります。

しかしテーパリングを織り込み、長期金利が落ち着いた後は、ハイテク株のファンダメンタル(収益力など)や将来の成長期待から再び上昇に転じることも予想されます。

一方、テーパリングの開始は裏返せばFRBが米国経済の正常化、安定的な成長についてお墨付きを与えたこととも考えられます。

景気敏感株やコロナ禍で売り込まれた銘柄などへの買いが加速する場面もありそうです。

狙い目 ▶︎ 景気敏感株やアフターコロナ銘柄

要注意 ▶︎ ハイテクグロース銘柄

個別銘柄へ投資を行うならば、現段階では充分なキャッシュの確保と銘柄分析を行い、相場下落を待つ作戦も良いのではないかと思います。