スカンジナビア半島の西側に位置し、北極海に面する海岸線を持つ国、ノルウェー。北欧の福祉先進国の一つであり、フィヨルドなどの広大な自然が観光資源となっている。
訪れたいと思ったきっかけは、愛読していたとある有名旅ブログのノルウェーの景色の美しさを紹介する記事を読んで興味をそそられ、どんなものかこの目で見てみたいと思ったから。シチリアに続きレンタカーで走り抜ける旅。期間は4日間。
1日目 オスロ・ガーデモエン空港 ~ ウルネス
空港でレンタカーを借りる
シチリアを出発し、マルタでトランジットしてオスロのガーデモエン空港に到着したのが深夜の一時。どこかもやもやするネーミングの空港だが、北欧らしいウッディーなデザインでかなり立派な空港だ。
時間が時間だけに、まずは仮眠を取る。空港ターミナルは広々としてクリーンだが、いかんせん寝床にできそうなベンチが少なく、どれも埋まってしまっている。しばらくウロウロしていたところ、2Fの従業員休憩所の傍に良さげなスペースを発見。柱の陰のフロア床に寝袋を敷き横になった。デッドスペースとなっていて、人はまったく通らず静かに過ごせた。
目を覚まし、空港内のレンタカーショップの開店を待ってピックアップへ向かう。車はコンパクトクラスでトヨタのオーリスと同級で予約した。貸し出されたのは、プジョーの2008というコンパクトSUV。外観はクールで内装もいい感じ。早速出発。
ノルウェーは右側通行で車は左ハンドルが主流。オスロから西部のフィヨルド地帯までは200キロ以上の距離があるので、この日はひたすら北西へ向かってのドライブ。シチリアと違って車は少なく道は広々しており、ハイウェイを走行しているのとほぼ変わらない。対面通行もなんら問題ない。通行量自体が少ないためラウンドアバウトがほとんどで、信号はオスロなどの都会以外には基本的に設置されていない様子だった。
昼頃になり小腹が空いてきたのでレストランを探すが、日曜日なのでどこもクローズしている。同様にスーパーも営業していなかった。唯一営業しているのがコンビニで食糧を物色するも、陳列されている品物の値札をみて戦慄した。水500mlでも300円以上する。旅中は、食費は一日1,000円に設定していたが、水2Lとビスケット200グラムで1,000円した。そしてこれがこの日の唯一のミール。節約旅では、この国で長期滞在は不可能と確信した。
ボルグンド・スターブチャーチ
スターブチャーチというものをご存じだろうか。ノルウェーに古くから残る木造教会で、こけら屋根や彫刻など、特徴的な建造物で、その独特な構造がとても興味をそそる。このスターブチャーチを見て回るのも、ノルウェー旅で楽しみにしていたことの一つ。
オスロから3時間ほど走っただろうか、道に案内標識が現れたので、幹線道路を折れ、側道に入るとすぐにそれとわかるシルエットが見えてきた。
漆喰で黒く塗られた教会は、釘などは一切使わず木材をパズルのように組んで建てられている。建築には深くないが、そんな高度な技法が今から何百年も前から取り入れられていたことに少々驚いた。そして、細かなピースを無数に組み上げて造ったこけら屋根。確か2年に一度だっただろうか、定期的に張替が行われているとのこと。全体的に手入れがしっかりされており、保存状態は素晴らしい。それにしても、なんとも味のある外観だ。
周囲をぐるっと一周見て回った。外から見る分には無料だが、教会内への入場は有料。訪問時は日曜のため、教会内への入場は不可だった。
世界最長・ラルダールトンネル
世界最長のトンネルは、ノルウェーにある。その名はラルダール・トンネル。フィヨルドを形成している岩盤をぶち抜いて造られたその全長は数キロにも及ぶ。内部は何か所かカラフルにライトアップされた休憩スペースのような空間がある。通行料は無料。
このトンネルに代表されるように、ノルウェーのフィヨルド地帯にはトンネルが無数にある。実際に目で見てみて、フィヨルド地帯の地形は本当に複雑で険しい。こんな環境下でインフラを整備するのはとても難儀なことに違いないと思うが、実際ノルウェーはどこもかしこも驚くほどきれいに整えられている。道路も、家々も、牧草地帯も。すべてが風景として絵になっている。
きれいな状態を維持するためのメンテナンスにはかなり労力が必要になりそうに思えるが、それを可能にしているのは人々の美意識からくるものなのだろうか。わずか人口500万人で、これだけの国を作り上げているノルウェー人の底力というか何というか秘めているものの凄さを感じた。
ウルネスの村へ
森林地帯を抜け、気が付くと周囲は高い岩山が次々と現れるようになっていた。フィヨルド地帯に入った証拠だ。道はフィヨルドの沿岸に沿ってずっと延び、途中、フィヨルドフェリーで対岸に渡ったりしてフィヨルドの奥深くへ進んでいく。
この日の最終目的地は、ソグネフィヨルドの最深部に近い場所にある、ウルネスという村。車一台分の細い一本道のどん詰まりにあり、その道をたどる以外は対岸の村からの船しかないアクセス手段がないという、なんとも秘境感ある場所だ。ロングドライブの末に到着したころにはあたりは真っ暗だった。調べていた通り、ちょうどよい感じの駐車場があったので、車を停めて寝袋を敷き就寝した。
2日目 ウルネス 〜 オースレン
ウルネススターブチャーチ
嵐の夜が明けた。目を覚ますと、目の前には朝靄漂うフィヨルドの絶景が広がっていた。昨晩車を停めた駐車場は展望台にもなっていて、フィヨルドの風景を楽しむのに最適な場所だった。
ウルネススターブチャーチへは駐車場から歩いて5分ほど。目の前に姿を現したのは、何ともこじんまりとした木造教会。前日に見たボルグンドスターブチャーチに比べると一回り小さなスケールだが、実はこの教会はユネスコの世界遺産に登録されている、世界最古の木造教会だ。
朝早い時間だったためか、案内所はクローズしていたので敷地内には入れなかったが、柵越しにぐるっと見て回った。人を寄せ付けないようなフィヨルドの険しい断崖絶壁が広がるこの地で、古の人々は何故どの様にして道を開き、家を建てこの教会を作ったのか。不思議に思うと同時に、その逞しさに驚かされた。
しばらくすると、フィヨルドの谷間に陽光が差し込み始め、立ち込めていた霧を追い払って青空が見えてきた。絵画作品の題材にでもなりそうなその美しい光景を暫しの間眺めた。
フィヨルド街道をゆく
この日は、ウルネスの村を出てガイランゲルフィヨルドを見にいく予定。最初はしばらく元来た道を戻る。ちなみに前述の通りウルネスの村から出る道はフィヨルド沿岸に30キロほど走る一本道のみ。
道を進んでいくと、どうやら昨晩の嵐のせいだろうか、道には落石が転がっているのが目につく。さらに車を走らせると、落石増えどんどん状況は酷くなっていく。そして隣の村の直前で完全に道が塞がってしまった。他に道はないので、閉じ込められてしまった格好だ。
こうなってしまうと、車で自力で脱出するのは不可。このフィヨルドの僻地から出る方法はただ一つ、ウルネスの村と対岸を繋ぐフィヨルドフェリーのみ。これが運休していたらどうしようもない。元来た道をUターンし、再度30分以上車を走らせてウルネスの村へ。
恐る恐るフェリー乗り場を確認すると、全く人気がない。掲示板には一応タイムスケジュールが貼ってあり、1〜2時間に一本の頻度で運行されているようだった。半信半疑で取り敢えずタイムスケジュールに書かれている次のフェリーを待つ。
しばらくすると、対岸から一艘の小型の貨物船がやってくるのが見えた。無事脱出。焦った。
ガイランゲルフィヨルドまでのルートは絶景づくしだった。海岸線から蛇行した坂を登り高度を上げていくと、氷河の残る山中へ入る。
木のない荒涼とした環境下、圧倒的なスケール感の岩山が次から次へと姿を現す。頂からは幾筋もの滝が流れ落ちている。
SF映画でしか見たことのない威容で、自分にとってあまりに現実離れした風景だ。これらは氷河がゆっくりと山々を削り出して作り出された自然の造形。まるで別の星に来たかのような、想像を遥かに超えた絶景だった。
ガイランゲルフィヨルド
絶景のフィヨルド街道を抜け、ガイランゲルフィヨルドに到着したのは日暮れ間近。走行距離自体は100キロ程度だが、絶景があり過ぎて5分おきぐらいで車を停めて写真撮影していたため、全然前に進めなかった。絶景過ぎて前に進めない状態。どこか別の惑星にいる気分だった。また、今朝の土砂崩れでのロスも痛かった。
既に太陽は山の向こうに姿を隠してしまっており、ガイランゲルの町は夕闇の気配。写真でよくみる巨大なクルーズ船はこの時はなかった。
急斜面にへばりつくように通る道を登り展望台へ行く。そこからの眺めももちろん絶景。これぞフィヨルドといった風景。夕刻の斜陽が入り組んだフィヨルドに光と影のコントラストを生み出し、風景を一層神々しいものにしている。絶景づくしの1日のクライマックスに相応しい風景だった。
3日目 オーレスン 〜 リンゲブ
オーレスン
幹線道路の休憩所で目を覚ます。まず向かったのはオーレスンという港町。立ち寄った理由は、丘の上から上の写真の眺めを見るため。
半島状の地形の上に北欧らしい街並みが延びている。丁度虹が差し込んできて、綺麗な眺望だった。
アトランティックオーシャンロード
アトランティックオーシャンロードは世界で最も美しい道の一つに数えられる道。ノルウェー海に面し、沿岸部に浮かぶ小さな島々をアーチで繋いでいる。うねうねとした橋の形状が特徴的。
通行料は無料で、途中ちょっとした休憩所と展望スポットがある。周辺は好漁場で、ウエットスーツに身を包んだ素潜り漁師がいたり、橋の上から糸を垂らす釣り人がいたり。でかいサーモンを釣り上げていた。
リンゲブ
後は翌日の決められた返却時間に間に合わせられるように、オスロへ戻る。この日中のオスロ到着は不可能なので、途中のどこかで寝床探しだ。地図を見るとリレハンメルという街がある。以前にオリンピック会場となった街だ。
取り敢えずリレハンメル目指して車を走らせる。内陸の方に進むとどんどん標高が上がり、気温が下がって来た。周りの景色に木々が多く現れ始め、陽が落ちると辺りは真っ暗で街灯もないのでヘッドランプ頼り。何とも心細い道のりだ。かと言って寒すぎるので寝床には適していない。もう少し標高が下がった場所を探さなければ。進めども進めどもなかなか距離が縮まらない。
延々と広がる森を抜け、道は下り坂になると同時に街が広がってきた。リレハンメルは無理そうなので良さような寝床が辺りにないかうろうろしていると偶然スターブチャーチの看板が。案内通りに車を走らせると、ライトアップされた大きな木造教会が見えてきた。名前はリンゲブスターブチャーチ。ライトアップされると昼間見るのに妖しさが加わり、周りに墓石が立ち並んでいるのもあっていろんな意味でムーディーだ。駐車場も静かな暗がりとなっていて、車中泊には最適。車内から暫しスターブチャーチを鑑賞し、寝袋に包まった。
4日目 リンゲブ 〜 オスロ
オスロ
寒くて目が覚めた。気温は5度。辺りはまだ薄暗い。そして目の前には昨夜と変わらず木造教会が見える。ライトは消されていた。車から降り、教会を間近で見てみる。前に回った2箇所よりも大きく、墓の多さも上回っている。教会の大きさも、街の規模に比例するようだ。
南に走ること2〜3時間でオスロに到着。空港でのレンタカー返却時間にまだ余裕があったので、オスロの中心を見て回って見ることにした。しかし、街の中心へ向かう道にはどこも料金所があり、駐車場も30分で1000円もしたので、30分ほど目抜き通りや城を軽くフラフラしただけで観光終了。空港へ行ってレンタカーを返した。
終わりに
ノルウェーは想像以上の国だった。まずは景色。フィヨルドの大自然のスケールはまるでSF映画に入り込んだようだったし、街はどこも綺麗に整えられていて清潔だ。
人々は静かで親切。華やかさとは無縁だが、厳しく豊かな自然と共生する自分たちの暮らしに誇りを持っているように感じられた。レストランや売店での会計後、みんながみんな優しく微笑みのにとても癒された。
物価がもう少し安ければ、何度でも足を運びたくなる国だ。